SI業界がビジネス価値を生み出せない理由

今回はSI業界がビジネス価値を生み出せない理由について考えてみたいと思う。
特にSI業界は構造的にビジネス価値を生みづらい形になっているのでそのことに触れたい。

そもそもビジネス価値とは?

ビジネス価値とは・・・どれだけ顧客の悩みを解決できるか、ということ。(だと私は思っている)

本来システムは顧客業務を円滑にするために導入されるものであることが多い。
そして顧客が実際に使ってみて
 「便利だな、助かったな」
と思うものに価値がある。
最新技術を駆使して造り上げられた高尚なシステムに価値があるのではなく、顧客の悩みを解決するシステムに価値があるのである。


分業化されたことによって見通しの悪くなったビジネス価値

本来、システム開発の構図はとてもシンプルである。

エンジニア自身が顧客から事情を聞き、解決策を提案する。
そしてインフラ設計〜アプリケーションの作り込みまでを担当し、システムを導入する。
「1人でそんな全て出来るわけないじゃないか」
と言われそうな気もするが、本来のあるべき最もシンプルな姿はこうであると思う。
この構図だと「ビジネス⇔システム」の垣根は低く、ダイレクトにビジネス価値を取り入れたシステムを導入できるようになる。


しかし、SI業界の構図はこのシンプルな形とは激しく異なる。

基本的にSIerには開発能力がないことが多いので、開発を請け負ってくれるソフトハウスを入れることでプロジェクトが成立する。
また、ソフトハウスもインフラ〜アプリケーション全てを包括的に請け負えるところは少なく、必然的に複数のソフトハウスが介入することになる。
ここで気にしないといけない点は顧客と向き合っているのは「ビジネスアナリスト」だけである、ということ。
実際の設計/開発を担当するエンジニアへビジネス要件が伝えられるまでに以下のルートを通ることになる。

  • ビジネスアナリスト =>PM =>業務アプリエンジニア
  • ビジネスアナリスト =>PM =>ミドルウェアエンジニア
  • ビジネスアナリスト =>PM =>インフラエンジニア

これでは「ビジネス⇔システム」の距離が遠すぎるし垣根が高い。
しかもこの場合、ダイレクトに
  「顧客がxxxを求めていて・・・」
と伝えられず、
  「(顧客がxxxを求めているんだけど)yyyの機能って盛り込める?・・・」
というビジネスアナリスト(またはPM)が見出した結果しか伝えられないこともある。

ビジネスアナリストまたはPMに優秀な(インフラ〜アプリケーションまで理解できる)方がいればビジネス価値の高いシステムを導入できるだろう。(システムにダイレクトにビジネス要件が適用されるので)
しかし実際問題そういったことは少なく、結局ビジネス要件など全く分かっていないPMの立てた間違った計画を遂行し、間違った計画通りに失敗を達成してしまうのである。

それぞれの専門分野にて縦割りされた組織は管理も分業もしやすい。
しかしそのせいでビジネス価値の見通しが悪くなってしまう。
そしてその組織を横断的に跨がるPMも、ビジネス価値とシステムを結ぶだけの能力が無いことが多い。
これがSI業界がビジネス価値を生み出せない一番の理由だと考える。

部分最適化によるボトルネックの作り込み

ここまではSIer(ビジネスアナリストやPM)にダメ出ししてきたが、ソフトハウスにももちろん原因はある。
それは「自分たちの領域の最適化しか考えない」ということ。

どういうことかというと、業務アプリエンジニアはアプリケーションのことしか考えないし、ミドルウェアエンジニアはミドルウェアだけ、インフラエンジニアはインフラのことしか考えないということ。
これだけ聞くと普通のことのように聞こえるかもしれないが、ここにSI業界の抱える根深い問題があると思う。

ビジネス価値とは顧客の悩みを解決するものだというのは先に述べたが、顧客要望があった際にそれを解決するのがアプリケーションかもしれないし、ミドルウェアかもしれないし、インフラかもしれない。
その中でビジネス価値を最大限に提供できる方法と、今後の運用コスト等をトレードオフで考えながら最適解を選定すべきである。
つまり、インフラ⇔ミドルウェア⇔アプリケーションを横断的に見て最適な方法を選択すべきなのである。

しかしソフトハウスは完全に分業化されていることに甘えており、自分たちの領域を出ようとしない。
場合によっては明らかにSIerが求めているものがおかしいと認識していながら、おかしいシステムを構築してしまうこともある。
結局そんなものは顧客には求められていないわけだから、顧客に価値を提供できるハズもない。
ソフトハウスこそチームを横断的に、そして顧客へ歩を進めて「ビジネス価値」に真摯に向き合わなければならない。

要約すると・・・

つまりこういうこと。

こんな構図じゃまともなシステムなんて構築できるわけないですよね。
でも実際、こういうことって普通にあるんです。。。


さいごに

SI業界はもっとビジネス価値と真摯に向き合わなくてはならないと思う。
「インフラチーム+基盤チーム+業務アプリチーム+PMO=50人 × 5ヶ月(250人月)」かけて顧客の望んでいないシステムを導入することを繰り返してはならない。
(このご時世、クラウドを活用すればスーパーエンジニアでなくても「オールランダー =1人 × 3ヶ月(3人月)」の方がより多くのビジネス価値を生むということは普通にあり得る。)

SI業界は分業化から脱却し、1人のエンジニアとしてインフラ〜アプリケーションまでを横断的に構築できる人材を育てていかなければ未来はないと思う。
少なくとも自分はそうありたいと思う今日この頃でした。